民藝 MINGEIー美は暮らしのなかにある』展を見に行ってきました。

物作り

名古屋市美術館で12月22日まで開催(終了間近!)の『民藝 MINGEIー美は暮らしのなかにある』を、野原工芸のスタッフ一同で見に行ってきました。

民藝についてのざっくりとした解説
民衆の、民衆による、民衆のための工芸(日用品)に用の美を見出した「民衆的工芸」の略語。
約100年前に思想家・柳宗悦、浜田庄司、河井寛次郎らが中心に提唱した、生活文化運動。
より詳しくとなると、かなり長くなるので、日本民藝協会にてご確認ください。

そんな民藝の起こりから現代に至る流れを、民藝協会(柳さん達)が収集した民藝品の数々をたどりながら、民藝とは?を考える展示となっていました。

美術展入ってすぐの空間は収集した民藝品で実際の生活を演出し、見る人にその中での生活を想像できるように展示した、100年前の民藝館のディスプレイを再現したものとなっていました。(こちらの展示は撮影OKでした)
現代ではイケアに代表される実際の部屋を演出する店舗ディスプレイのようなもので、その先駆けなのではないかと思います。

この先は民藝を『衣・食・住』の三パートに分け、民藝の品々を展示紹介し、現代に受け継がれる手仕事や産地の紹介へと続いていました。

後半に展示されている、ディスプレイ。(こちらの展示は撮影OKでした)
100年前の展示に対し、現代に生きる手仕事によるディスプレイといった感じでした。

ちなみに、展覧会のなかで使われている写真や動画は、当店の写真(フォトコレクション等)やプロモーション動画でお世話になっているカメラマンのオガワユウキさんナガタタクヤさんによるもので、天井からかけられていたタペストリーがほしくなりましたw

作り手としての自分から見た民藝について

下手物(日常品)に民藝と名付け、美術品のように扱ったことはその後の日本の手仕事に大きな影響を与えており、ものづくりを生業としている自分たちにとって地続きの現実であり、とても身近で、とても大切で、とても難しく、悩ましい命題の一つだったりします。

私としては、イギリスのアーツ&クラフト運動の影響、日本の工業化、近代化と称した西洋化により失われつつある日本の手仕事の保護。日本の地域風土に根ざした手仕事による日用品の美しさや素晴らしさに着目し、気づきを与える運動だったと認識しています。
思想家である柳さんの考える『用の美』と言う言葉は好きではあります。

ただ、民藝の思想は、現代の日本で手仕事を生業とする職人にとって良いことか?という点についてはとても判断が難しいですね。民藝の特性は9項目あり、それらを内包した、民藝美は『無心の美』『自然の美』『健康の美』であると説明されています。

  1. 実用性。鑑賞するためにつくられたものではなく、なんらかの実用性を供えたものである。
  2. 無銘性。特別な作家ではなく、無名の職人によってつくられたものである。
  3. 複数性。民衆の要求に応えるために、数多くつくられたものである。
  4. 廉価性。誰もが買い求められる程に値段が安いものである。
  5. 労働性。くり返しの激しい労働によって得られる熟練した技術をともなうものである。
  6. 地方性。それぞれの地域の暮らしに根ざした独自の色や形など、地方色が豊かである。
  7. 分業性。数を多くつくるため、複数の人間による共同作業が必要である。
  8. 伝統性。伝統という先人たちの技や知識の積み重ねによって守られている。
  9. 他力性。個人の力というより、風土や自然の恵み、そして伝統の力など、目に見えない大きな力によって支えられているものである。

日本民藝協会・「民藝」の趣旨より

この9項目、概ね納得できるのですが、『無心の美』について『民衆=無知』と捉え、『無知なる職人』の手仕事により作られる日常雑器に、無知故に宿る意図しない美を見出し賛美していた点について。

100年前の知識人と民衆の間に大きな隔たりがあり、『民衆=無知』という認識はそこまでズレていなかったようですが、現代を生きる自分たちにとってそれが当てはまるのか?
今どき『民衆=無知』なんて言ったら炎上です。

同様に無知なる職人と言うのも、職人には無知なまま、作為的なことを考えずに黙々と同じものを作ることを良しとしていました。
また、その作為のない日用品に美を見出すのは知識人(柳さん達)で、作り手が自ら美を見出してはいけないともしていました。
にも関わらず、それでは立ち行かなくなるので、工芸作家に指導的役割を担わせようとしたため、美意識に対する作為が生まれ、民藝思想との矛盾を指摘され、当時から物議を醸していたようです。

横道にそれてしまいましたが、当時と現代では、手仕事や職人、それを使う人々の置かれる環境も状況も違います。
紆余曲折ありますが、現代にも民藝美が根づき、今でも愛され、議論されていることは、身近な日本の物作り文化に多大な影響を及ぼしていると感じます。

実際に本展覧会にて展示されているもの、一つ一つに民藝美を感じることが出来、実用的で地域に根ざした作為のない健康的な美しさに触れると、その尊さに頭が下がる思いでした。
色々と思うことはありますが、民藝の思想に着目した本展覧会、様々な気づきを得ることができる良い展覧会でした。

なお、名古屋市美術館では、12月22日までの展示となっていますが、2025年2月8日からは福岡市博物館にて開催される予定です。
民藝美にご興味がある方は是非に!

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